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  • 執筆者の写真TOKYO TEA BLENDERS

TEA FOLKS1 丸子紅茶 村松二六さんのご紹介

更新日:2023年2月19日

TEA FOLKS(ティーフォルクス)は2カ月に一度、2茶園のプレミアム和紅茶を茶園のストーリーとともにお届けする定期便サービスです。

定期便価格で最新版をご希望の方はこちらからお申込みください。

各便のバックナンバー及び個別の茶葉単体販売も行っています。(在庫次第となります)


目次


1.丸子紅茶の特徴

丸子紅茶の代表的な取り扱い品種である「べにふうき」の特徴をご紹介します。


村松さんが「紅茶らしい紅茶を目指した」とおっしゃっるとおり、水色は深紅色で、味はすっきりとした渋みのあとに甘みを感じさせます。華やかな香りも丸子紅茶の特徴です。


村松さんは、出来上がった紅茶を試飲する際にはストレートだけでなく、ミルクティーにして試飲し、味の良し悪しを判断する材料にしているそうです。


和紅茶は淡い味わいの品種が多いですが、その中にあって丸子紅茶の「べにふうき」はミルクとあわせて甘みを感じられたり、チャイにもできてしまうボディの強さをもっています。


海外の紅茶に慣れた方にとって丸子紅茶は意外な甘みを感じさせ、和紅茶に慣れた方には味の濃厚さに驚かれるのではないでしょうか。

村松さんは、「くどくない食べ物」、例えばクッキーなどとペアリングして飲むことをお勧めしています。



2.断絶した国産紅茶の歴史を取り戻したレジェンド


丸子紅茶の歴史は「断絶した国産紅茶の歴史」と深い関りがあります。


この歴史を紐解くには大政奉還後の明治初期にまでさかのぼる必要があります。開国をしたばかりの当時、日本の富国強兵を支えたのは生糸と茶の輸出による外貨獲得でした。


明治政府は早々に、欧米では緑茶ではなく紅茶が好まれると気付き、紅茶を積極的に輸出したいと考えました。しかし、緑茶しか作ってこなかった日本にとってそもそも紅茶の作り方は謎に包まれていました。


そこで、明治政府は徳川家の元家臣で維新後に静岡の丸子で茶を栽培していた多田元吉氏を視察団に抜擢し、中国やインドに派遣します。


多田氏は視察先で紅茶の製造方法を学び、アッサム等の茶の種を持ち帰ります。ただし、熱帯のインドで自生するアッサム種のチャノキは寒さに弱く、本来であれば日本の風土には合わず枯れてしまうはずです。


ところが、多田氏が持ち帰った種の中には奇跡的に日本の風土に適合して力強く育つチャノキがあったのです。


多田氏の帰国後、日本各地に政府主導で紅茶の作り方を教える伝習所が設立されて徐々に日本の紅茶生産量が増えていきます。多田氏が持ち帰り日本の風土に適合したインド系の茶の配合による研究は長期にわたって進められて、多田氏の持ち帰った種の血を引く「べにほまれ」が日本初の茶の品種として1953年に登録されました。


戦後に国産紅茶の生産量のピークを迎えますが、1971年、紅茶の輸入自由化が大きな節目となりました。国産紅茶は高品質で低価格の海外産に太刀打ちできず、特に国内需要が落ち込んだため日本国内での紅茶生産は壊滅状態となってしまったのです。


それでは、日本の茶園では誰も紅茶をつくらなくなったのに、今の和紅茶ブームはどこからきているのでしょうか?


その和紅茶復活の立役者が、多田元吉氏の故郷である丸子にて1989年から本格的に紅茶づくりをはじめた丸子紅茶の村松二六さんなのです。紅茶輸入自由化で紅茶作りが途絶えてから20年近くたっていました。



3.多田元吉氏の持ち帰った茶の子孫


村松二六さんは、静岡市で1940年に生まれました。その家庭には代々引き継いできた茶畑がありました。


村松さんは幼少期から近所にある多田元吉氏のお墓のまわりを遊び場にしていました。その多田氏の屋敷には彼が持ち帰った種で育てた原木が残っていました。


村松さんは若かりし頃に1953年から3年間かけて緑茶・紅茶の製茶実習に通っていた経験があり、中学卒業と同時にお茶の世界に入りました。紅茶の輸入が自由化されるまでは、緑茶作りをしつつ、紅茶作りを研究し揉捻機や発酵機を製作していたそうです。


紅茶作りの知識と経験はありつつ、長年、その生産はしていなかった村松さんにとって転機となったのが、1989年の出来事でした。


近所の開発の影響で多田氏の屋敷にある原木が伐られることになったとき、村松さんは頼み込んで原木を別の場所に移植してもらい、その移植をしてもらったことがきっかけとなり紅茶作りを本格化させようと一念発起しました。地元の偉人である多田氏の遺志を引き継いだのです。

時を同じくして1993年に、鹿児島の茶業試験場ではあの多田氏の原木の血をひきつぐ「べにほまれ」を母親に、インドのダージリンから持ち帰った(※)茶の種(中国系)を父親に交配させた「べにふうき」が日本初の発酵茶(紅茶)用の品種として登録されました。 ※マナスル登山隊長槇有恒氏が持ち帰った


村松さんは、その「べにふうき」を育てた鹿児島県の試験場から1996年3月に苗木1,500本を誰よりも先駆けて取り寄せて、民間ではじめて栽培に成功させたとして報道されています。


一度は輸入紅茶に太刀打ちできなかった国産紅茶ですが、日本の風土に合った紅茶用品種が栽培されることで新たなステージに踏み出したのです。その発火点となったのが多田氏の故郷、丸子だったということに数奇な運命を感じます。



4.特許登録された紅茶製法


村松さんの手掛ける丸子紅茶の特徴は品種だけではありません。「べにふうき」の茶園は標高200メートルほどの場所で無農薬かつ天然の有機質肥料にこだわって栽培されています。


肥料に含まれる窒素は多すぎても少なすぎても美味しい紅茶はできないため、2~3月頃から茶畑の成育状況をみながら肥料となる油粕を撒いています。


栽培された茶は5月初め頃から摘み始めるのですが、摘んだあとには、しおれさせて(萎凋)、揉み込み(揉捻)、発酵させるプロセスが待っています。どのプロセスも時間をかけすぎたり、逆に短すぎたりすると紅茶の味を損なってしまう真剣勝負です。


村松さんはインド、スリランカ、台湾に何度も出張しては研修を受け、現地の製法を学んでこられました。


村松さんが試行錯誤を繰り返して開発した発酵のための機械は「紅茶等の製造工程における茶葉の発酵方法並びにその装置」として特許登録されています(特開平07-227210)


品種、栽培、製造、どのプロセスをとっても思考を巡らせ、今なお研究、発達しているのが村松さんの丸子紅茶なのです。



5.消費者だけでなく”生産者”にも親しまれる村松さん


国産紅茶のトップブランドとなった丸子紅茶やその生産者である村松さん夫妻には、全国にファンがいます。しかも、紅茶を飲む側のファンだけでなく、生産者の側にもファンがいるのです。


和紅茶復活の黎明期を支えた村松さんは、その製法を惜しみなく披露し、紅茶作りに興味がある茶園農家さんたちもたくさん学んでこられたそうです。


※2020年10月の村松二六さんによる講習。参加者より写真提供。


全国地紅茶サミットを2002年から毎年開催され和紅茶の発展をみてこられた藤原さん、赤須さんにインタビューをした際にも、和紅茶が大きく飛躍したのは村松さんが丸子で講習会を開催した2010年の「第9回全国地紅茶サミット2010in静岡市」だったとお二人が語っておられました。


もはや和紅茶黎明期のレジェンドとなった村松さんですが、紅茶作りの研究は今も続いています。品種は「べにふうき」のほか、「べにふじ」「べにひかり」「いずみ」「ただにしき」なども育てています。


「べにふじ」は「べにふうき」と同じく、丸子紅茶が民間でいち早く栽培をはじめた品種で、全国でもまだ栽培している茶園自体が限られています。


「べにふうき」にふくまれるメチル化カテキンは花粉症に効くと有名ですが、「べにふじ」は「べにふうき」よりその含有量が多くより機能性が高いのだそうです。丸子紅茶では「べにふうき」と並んでこの「べにふじ」が人気だということです。


「べにひかり」は中国茶風のさっぱりとした味や香りが好きな方々に好評で、栽培も比較的容易で誰がつくっても美味しくできるそうです。


さらに、紅茶や緑茶だけでなく、ウーロン茶作りにも熱心で、大学のお茶の先生にも一級品と認められる腕前です。



6.東海道五十三次の名所 丸子


丸子紅茶の丸子は歌川広重でも有名な東海道五十三次の20番目の宿場です。名物は「とろろ汁」で、松尾芭蕉も「梅若菜 丸子の宿の とろろ汁」の句を残しているくらい、随分昔から知られた名品のようです。


多田元吉氏の碑や原木が移植された神社は丸子紅茶の工場の数ブロック隣で徒歩数分の場所にあります。

また、静岡市内には丸子紅茶をいれたアフターヌーンティーを提供するカフェもあります。現地の水でいれて飲む紅茶はよりいっそう美味しく感じられるでしょう。



※本内容は2021年1月16日にTOKYO TEA BLENDERS及び、東京大学紅茶同好会、駒澤大学紅茶研究会のメンバーで村松さんにオンラインインタビューをした内容をベースに、書籍『チャとともに』農文協 2015年や丸子紅茶のホームページなどインターネット情報を参照して文書化しました。2021年4月に村松二六さんご本人によるレビューを頂いていますが、文責はTOKYO TEA BLENDERSとなります。

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