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News & Blog

執筆者の写真Masayuki Mahara

TEA FOLKS33 秋山園 秋山勝英さんのご紹介

TEA FOLKS(ティーフォルクス)は2カ月に一度、2茶園のプレミアム和紅茶を茶園のストーリーとともにお届けする定期便サービスです。

定期便価格で最新版をご希望の方はこちらからお申込みください。

各便のバックナンバー及び個別の茶葉単体販売も行っています。(在庫次第となります)




1. 秋山園「べにふじ」の特徴



今号では幻の品種とも称される「べにふじ」の2023年秋摘み紅茶をお届けしています。


秋山園の作る「べにふじ」紅茶は爽やかな柑橘の香りと花香が混じり合いバーベラを思わせるような香りを漂わせます。


また紅茶らしさを感じる程よい渋みと余韻のある円やかな甘味のあるミディアムボディの味わいです。


「べにふじ」は旧系統名を「X13」といい、紅茶用品種である「べにほまれ」と「C19」の交配実験によって生まれ、1960年に茶農林22号として農林水産省に品種登録されました。


当時は「べにほまれ」をはじめ、「いんど」「はつもみじ」「べにたちわせ」「あかね」の5品種が既に紅茶用として農林登録されており、茶産地の気候条件等に応じて栽培されていました。


しかし、当時の紅茶生産の北限地域であった近畿東海地域においてはいくつかの品種は耐寒性や品質の観点から栽培可能な品種が限られていました。


「べにほまれ」と「はつもみじ」以外の紅茶用品種は耐寒性が足りず、九州が主な生産地でありました。


比較的優れた耐寒性を示した「はつもみじ」に関しても愛知県や三重県などの比較的温暖な地区での栽培に限られていたそうです。


そのため、当時の静岡県下では紅茶用農林登録品種の中で栽培に適するとされていたのは実質的に「べにほまれ」の1品種のみ、国以外の登録品種である「からべに」と「ただにしき」を加えても3品種しかない状況でした。


このような背景をもとに新たな紅茶用品種開発が望まれ、誕生したのが「べにふじ」だったのです。



静岡県内で実施された試験において「べにふじ」は鹿児島県系の紅茶用品種よりも強く、静岡県系の「べにほまれ」や「C17」と同程度の耐寒性を示し、「べにほまれ」と同等以上の品質、「べにほまれ」以上の収量が見込まれたため、期待の品種として有望視されました。


また「べにふじ」と同年に農林登録された鹿児島県系品種の「べにかおり」と比較しても耐寒性に優れていたようです。


しかしながら、実際には初期生育の難易度が高いようで思うように栽培できない茶農家も多く、今となっては幻の品種となってしまったのです。


2. 秋山園の歩み


秋山園は明治時代に茶栽培を始め、現園主の秋山勝英(あきやま かつひで)さんは茶農家として四代目の園主になったそうです。



創園当時は川根から茶の種を貰い受け、実生で育てた在来種の茶作りを行っていました。


時は進み三代目となる勝英さんのお父様の頃までには既に幾つかの品種が植えられていたようですが、本格的な品種茶への取り組みは勝英さんの代から始まります。


今からおよそ40年前、勝英さんが二十代半ばだった当時はまだ茶価も高く取引されており、「やぶきた」煎茶が主流の時代でした。


しかし、秋山園の位置する富士市周辺は遅場所と呼ばれるエリアに属しており、最も高値で取引される新茶の時期で他地域の茶産地に遅れをとっていたようです。


そのため少しでも早く摘めるようにと、早生品種を中心に勝英さんの納得出来るポテンシャルを持った品種茶の探求が幕を開けました。


勝英さんは新たに苗木を植えると、翌年には手摘みで少量収穫し、実際に製茶を行うことで品種の前知識と比較して、秋山園における実際の適性を見極めます。



特に緑茶用に開発された経緯のある品種については、一度は一通り全て紅茶に仕上げて、今後敢えて紅茶にする必要性があるのか判断しているようです。


その中でも勝英さんが紅茶にも適性があるとして関心を示している新たな緑茶用品種は「ゆめわかば」と「ゆめかおり」です。


どちらの品種も紅茶として仕上げる生産者さんは多くはありませんが、萎凋・発酵工程により香りが際立つ品種なので、今後が楽しみな品種です。


3. 品種茶への取り組み


秋山園では珍しい品種も多く抱えており、バラエティ豊かな製品を作り上げています。


前章でも述べた通り、現園主の勝英さんから品種茶を追究するようになりました。


勝英さんが品種茶に取り組み始めた1980年代は茶価が今よりも高く、「やぶきた」煎茶が主流であっただけではなく、その他の品種は合組で用いることはすれど、現在のように単体で販売することは決して一般的ではありませんでした。


それでも勝英さんは地理的なハンディキャップを埋めるために品種追究を始めた結果、一番茶は南九州と並んで四節気の清明(4月5日頃)の時期に摘期が訪れるようになり、取り組み当初からひと月以上早く摘めるようになりました。


また、この取り組みによって現在も多くの品種を保有しており、2022年は紅茶だけでも10品種ほど仕上げることが出来ました。



これら全てを一般販売しているわけではなく、茶商さんから注文が入れば対応しているものも含まれており、まさに秋山園の品種バラエティの豊富さと勝英さんが築き上げてきた技術の成せる業と言えるでしょう。


4. 和紅茶の開発・研究


明治時代から茶栽培に取り組む秋山園ですが、和紅茶の開発・研究を行うようになったのも勝英さんからでした。


勝英さんが和紅茶開発に取り組み始めたのは10年以上前のことになります。

きっかけは秋山園で「べにふうき」を栽培していたことでした。


16年ほど前に「べにふうき」を定植した秋山園では、当初花粉症などのアレルギーに働く緑茶として製造していました。



「べにふうき」緑茶を製品化してから数年後に勝英さんは、「べにふうき」は本来紅茶用として枕崎で開発された品種のため、せっかくなら紅茶に仕立ててみようと考え、実際に紅茶製造に取り組み始めたのです。


また勝英さんは製茶に携わる人々にとって憧れの的である小ロット生産が可能な揉捻機械を所有しているため、生産リスクをほとんど背負わずに挑戦できることも紅茶製造に取り組む際の後押しとなったそうです。


こうして始まった秋山園の紅茶製造は、元の保有品種の多様さも相まって現在の様相を呈するに至りました。


勝英さんは紅茶用品種を用いるのはもちろん、前章でも触れた通り、緑茶用品種の紅茶化による和紅茶研究は常に続けられており、日々知識と経験はアップデートされていきます。


そんな勝英さんの経験から紅茶用品種については「べにほまれ」「べにふじ」「べにひかり」の3品種に特に光るものがあると感じでいるそうです。


およそ7年前に試験場から幻の品種となった「べにふじ」の苗木を引き取ってきた勝英さんは、その数少ない生産者として名を馳せています。



というのも、第1章で記述した通り、実際には初期生育に手間のかかる品種であるため、生産をやめてしまう農家さんが多かったためです。


多品種を栽培して培ってきた技術によって安定した生産を続ける秋山園の「べにふじ」は品種マニアだけでなく、幅広く愛される和紅茶として作り続けられています。


秋山園の紅茶作りでは茶葉を摘採する際に芽格を揃えることをとても大切にしています。


そのため収穫時期の見極めを徹底することが求められます。

また作業をするのは人間であるため、摘期間と労働条件が一致したタイミングが最も良い紅茶作りの条件に欠かせないのだそうです。


そんな秋山さんが思う和紅茶のクオリティーシーズンは主に二つあります。

一つが春、そして二つ目が秋です。


夏は温暖で比較的芽の生育も良く安定して良い紅茶を生産できますが、春と秋は煎茶の一番茶の作業や、気候条件も大きく関わってくるので求められる難易度が増します。




特に秋は春に比べて地中の窒素成分が減少するように思われるため、紅茶製造においては春以上の香り高さや品質が期待できることもあり、秋山園では秋摘みの紅茶が多く販売されています。


紅茶製造については和紅茶誕生初期に伝わったインド式と、後に一般化した中国式があります。


これらは萎凋の仕方に違いを見出すこともありますが、現在主だって言われることとしては揉捻の強さと製茶後の葉の大きさです。


今回の「べにふじ」紅茶の茶葉を見ていただくと、秋山園の紅茶は比較的小さな規格に茶葉が揃えられていることがわかります。


しかし、これはインド式で作られているわけではなく、仕上げ後の一手間として茶葉を裁断機にかけて規格を統一しているのです。


この一手間を加えることで、淹れ手は抽出が容易になり、安定した風味を余すことなく再現でき、そこに勝英さんの紅茶製造に対するこだわりを感じることができます。


5. 更なる発酵茶への展望


秋山園では近年、和紅茶の他にも和烏龍茶の製造にも取り掛かっています。


強い火香を感じられるものよりも、華やかな烏龍茶が好みだと語る勝英さんは、いわゆる包種系と呼ばれる和烏龍茶作りに精を出しているようです。



長年に亘って品種研究を重ねてきた勝英さんは、包種烏龍茶の本場と見なされる台湾にトップの座を譲りつつも、我が国にも独自の包種烏龍茶として高品質のものを製造できるポテンシャルがあると考えています。


特に紅茶用として開発された品種には烏龍茶にしても光るものが多いと睨んでおり、和紅茶作りと並行して日々研鑽を重ねています。


そのため、今後は和紅茶作りを継続する他、和烏龍茶の割合も可能な限り段階的に拡大していく方針のようです。


既に高いレベルまで引き上げられている我が国の紅茶技術が、秋山園はじめ、烏龍茶などの発酵茶まで活かされ、今後ますます発展していく未来の様は輝かしく思います。




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