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1. ねじめ茶寮「べにひかり」の特徴
「べにひかり」は1969年に茶農林28号として農林省に登録された9番目の紅茶用品種です。
品種登録制度の始まる直前の1952年に、インド・アッサムからの導入種(Ai21)を親に持つ「べにかおり」(茶農林21号)を種子親、中国からの導入種(Cn1)を花粉親として鹿児島県枕崎市の茶業試験場で交配実験が始められ、その実生群中から選抜されました。
品種特性としては、当時の主流品種「べにほまれ」や「はつもみじ」同様に晩生で耐寒性にも優れ、また収量にも期待が持てる品種でした。
同時に紅茶としての品質も高く評価されており、特にメントールのような華やかな香りは他の日本茶品種の中で全く類を見ません。そのため、「べにひかり」は輸出用国産紅茶品種として高い期待を一身に背負っていました。
しかし、この当時、高い経済成長によって先進国の仲間入りを果たした日本は、主な紅茶生産国であるインドやスリランカ、ケニアなどから紅茶の関税引き下げ要請を受け、さらには1971年の紅茶の輸入自由化が決定打となり、国産紅茶産業そのものが衰退したため、「べにひかり」が日の目を浴びることはありませんでした。
今号では、そのような経緯から幻の品種と呼ばれることもある、ねじめ茶寮の香り高い「べにひかり」をお届けします。
(地紅茶サミット2022in南九州 で副実行委員を務めた後藤さん)
2. ねじめ茶寮の始まり
ねじめ茶寮は2005年に鹿児島県南大隅町北部の根占地域で始まりました。
南大隅町は九州本島最南端の町として知られ、大隅海峡を流れる黒潮の影響もあり高温多湿の気候条件にあるため、多様な亜熱帯性植物が見られます。
肝属山地の上に広がる茶園は「天空の茶畑」の愛称で親しまれ、そこからの眺めは大変素晴らしく、対岸にある薩摩半島最南端の開聞岳と桜島を一度に望むことできます。
園主の後藤望さんは京都の大学を出た後に大阪で就職しました。
その後、東京への転勤と結婚を経験しておよそ10年間のサラリーマン生活を続けますが、根占産ピーマンとの出会いをきっかけに、根占に移住し就農を決意します。
就農当初はピーマン栽培を営みますが、無農薬栽培へ転向するため、2005年の春に新しい作物として茶の苗を植えました。こうして「紅茶専業農家」としての再スタートを切りました。ねじめ茶寮は創業当初から今日まで、ご夫婦2人で経営しています。
ねじめ茶寮では主に「べにひかり」と「べにふうき」を栽培しており、どちらもインド・アッサム種の血統を継承した日本を代表する紅茶用品種です。まさに紅茶専業農家にふさわしいラインナップだと言えるでしょう。
3. 紅茶専業農家としての門出
丸子紅茶の村松二六さんをはじめ数々の先達による和紅茶の復興が成された現在も、日本茶産業の主流は緑茶生産であり、その傍らで紅茶生産を行っているところは少なくありません。
後藤さんは胸を張って無農薬だと言える作物を作るため、2005年にピーマンから茶栽培へ転向し、「紅茶専業農家」として新たな門出を迎えます。
しかしながら、紅茶生産の開始当初から現在の地位を得たわけもなく、今日に至るまでの苦労もたくさんありました。
第一に、畑を茶園として成すのに苦労したと後藤さんは語ります。2005年春に初めて茶の苗を植えたものの、その年の夏には台風の被害に遭い約半数の茶苗が枯れてしまったのです。翌年に再び茶苗を植えますが、今度は動物に畑を荒らされてしまいます。
ようやく茶園の形が整い紅茶の製造を始められるようになると、製茶機械などは当然ないので手摘み手揉みで製造し、乾燥はホットプレートで行なっていたそうです。
この様に試験的に製造された紅茶を後藤さんは長崎のホテルの厨房などに持ち込み、客観的な評価を集めました。
他の紅茶生産者の知識や情報を収集し、実践することで後藤さんは紅茶を改良していきます。
次第に後藤さんと村松さんらの直接交流も始まり、親交を深めると、紅茶づくりに関するアドバイスをいただくことや、製茶機械導入の際には業者との仲介をしてもらうこともあったそうです。
数々の困難を乗り越えてきたねじめ茶寮は2017年に有機JAS認定を取得し、そして今日では「べにひかり」だけで年間約100kgの紅茶生産量を誇る日本国内有数の紅茶専業農家となりました。
4. 創業時から一貫する手作り紅茶
ねじめ茶寮の位置する鹿児島県南大隅町は県内でも特に深刻な少子高齢化問題を抱えています。
年々高齢化がすすむ中、地域の小中学校は統廃合を繰り返し、その数を減らしていきました。
旧根占中学校もそのうちの一つです。
ねじめ茶寮は旧根占中学校の一角を紅茶工場として再利用しています。
二階の教室には萎凋棚が、一階理科室には揉捻機などの製茶機械が設置されています。
ねじめ茶寮では、創業当時から製茶機械を導入した今日まで、一貫して人の手による紅茶づくりを大切にしています。
比較的温暖な気候で紅茶づくりに恵まれた環境の南大隅町ですが、ねじめ茶寮では自然の力に委ねる割合が大きいため人の介在が決して欠かせません。
例えば萎凋時には茶葉の水分含有量を50%まで飛ばすことを目標としますが、自然風に任せる萎凋では、湿度が高い時や空気が乾燥しすぎている時などでその度合いが変化します。
また紅茶づくりの特徴である発酵段階では、気温が高すぎると想定以上の発酵が促されてしまうこともあり得ます。
そのため、後藤さんは機械のみに頼ることはせず、茶葉を目で見て手で触り、香りを嗅いで状態を確認することで、その都度適切な製茶を行います。
その時々の自然条件に合わせた紅茶づくりは、熟練のなせる業です。 達人の業と根占の風土が織りなす紅茶は、多様な個性を持ち合わせ、一期一会の作品として仕上がります。
5. ねじめ茶寮の新たな取り組み
後藤さんは「紅茶専業農家」の一代目として和紅茶文化を盛り上げるため、新たな活動にも積極的に取り組まれています。
ねじめ茶寮では2020年の夏から、新たな取り組みとしてキッチンカーでの移動販売を開始しました。
「紅茶をより身近な飲み物として感じてもらいたい」「紅茶が苦手な人にも楽しんでもらいたい」「消費者と生産者間で直接顔の見える交流がしたい」という思いから始まったこの活動では、自社製の紅茶はもちろん、「べにふうき」を使った和紅茶アイスクリームやジェラート、焼き菓子などを提供しています。
生産者と消費者の距離が近い、まさに和紅茶ならではの魅力だと言えるでしょう。
そして、2022年11月に知覧で開催された全国地紅茶サミットin南九州では副実行委員を務めました。当初は2021年開催の予定でしたが、コロナ禍で一年延期となりました。
まだ完全にはコロナがおさまっていない中で、イベント開催の判断は大変難しいものでしたが実行委員が力を合わせ、イベントは大成功をおさめました。
6. 南大隅町の魅力
ねじめ茶寮のある南大隅町は、その地理的特性から日本国内では珍しい亜熱帯性の植生を目にすることが可能です。
また、北部の根占地域には、ねじめ茶寮からもさほど遠くないところに「雄川の滝」があり、圧巻の景色が広がります。
人と南大隅町の大自然が織りなす紅茶を、是非ご堪能ください。
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