TEA FOLKS(ティーフォルクス)は2カ月に一度、2茶園のプレミアム和紅茶を茶園のストーリーとともにお届けする定期便サービスです。
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目次
1.釜炒り茶柴本 自家育苗 釜紅 の特徴
釜炒り茶は、収穫した茶葉を熱い鋳物製の丸釜で炒る製法のお茶です。炒ることで香ばしく、すっきりとした味わいのお茶になります。
日本では釜炒り茶は主に九州宮崎県北部を中心に生産されていて、生産量は全国生産比1%以下とごく少量ですが、世界的に飲まれてる緑茶の多くは実は釜炒り茶だといわれています。
今回お届けする「釜紅」は、自家選抜育苗の単一種(シングルオリジン)で、ブレンドをしていません。
発酵は短めの3時間。短くすると品種の香りが出やすく、緑茶の時に出る香りが紅茶にも出るそうです。
この単一種には今のところ商品名がついておらず、今後名称を募集する予定とのことです。
紅茶を抽出して口に含むと、不思議な七変化をおこし、純朴な土の香りが広がったあと、ほのかな酸味がして甘みへと変わります。自家育苗ならではの面白さと可能性を感じさせてくれる茶葉です。
2.釜炒り茶柴本のはじまり
釜炒り茶柴本の茶園は、俊史さんで3代目です。
祖父のジツオさん、お父さんのヒロシさん、そして俊史さんへと引き継がれてきました。
曾祖父のキサブロウさんは一帯の地主で、地域の実業家のような存在でした。
土地を貸して小作人に農作物を作ってもらっていましたが、戦後の農地改革を経て、ジツオさんの代から家業としての製茶農業が始まりました。
キサブロウさんは、茶農業協同組合という概念を地元に根付かせた人でもありました。
製茶作業が手もみから機械の時代へと変わり、製茶機械を1台、2台と導入し、そのうちに全行程を機械で行うようになりました。
個人で機械を買うには高価だったことから、集落の人たちで工場を立て、みんなで製茶していけばコストが下がり資金調達もやりやすくなるということで、キサブロウさんが初代の組合長となり組合が作られたのです。
3.釜炒り茶との出会いとお茶修行
俊史さんが通っていた静岡県立小笠高等学校には、選択学科として茶と文化コースがあります。
そこで農作業を行いながら、施肥をする意味や方法、機械の使い方などの基礎知識を学びました。
また茶業部という部活動があり、俊史さんは2年目から部長を務めていました。
その文化祭企画で、青柳式釜炒り茶伝道師である故 小川誠二氏と出会い、そこで初めて釜炒り茶を知りました。
県内で生産されているお茶には詳しかった俊史さんでしたが、産地や品種ではなく根本的に違うものがないか?と探していて、出会ったのが釜炒り茶だったのです。
その後、俊史さんは静岡県立農林大学校に進学し、茶技術全体を学びます。
1年目は農業全般について学び、2年目からは自分でテーマを決めて専門コースを選び、現場研究員の手伝いをしながら学ぶという生活。
俊史さんは、茶業研究センター土壌肥料室で茶技術全体を1年、現場研修で清水区茂畑のしばきり園 杉山茶師の下で学びました。
茶農家としての進路を考えた時、俊史さんの中には「高校の時に飲んで感動した釜炒り茶を作りたい」という使命感にも似た思いがありました。
小川氏に釜炒り茶農家としての進路相談をしたところ「県内に釜炒り茶農家はいない」と言われ、釜炒り茶の主産地である宮崎県日影町の有機茶農家、一心園を紹介されました。
また俊史さんは自分でもインターネットで調べ2年生の夏休みを使い、宮崎を中心に熊本の釜炒り茶生産者のところにも視察に行きました。
視察後、茶葉を研究センターで鑑定し、静岡の煎茶との違いを一番感じるのはどれか?と比較した時、一番個性があり美味しいと感じたのが一心園の釜炒り茶でした。
俊史さんは一心園で、2年半住み込みで研修させてもらうことになりました。
4.静岡で釜炒り茶農家になるという思い
一心園での研修を終えた俊史さんは、牧之原に戻りました。
宮崎で釜炒り茶農家になるのではなく、地元静岡で釜炒り茶をつくりたいと考えていたのです。
俊史さんには静岡県茶業のコンテンツの多様化をはかり訴求力を強くしたいという想いがあります。
当時は、小ロット多品種化、それを100g1,000円で売るにはどうすればいいか?といったことが業界の主な話題でした。でもそれは、真似をしようと思えば誰にでもできてしまいます。
品種を多く植えたところで他の産地との差別化は難しいと感じていました。
牧之原に戻ってからも、4年間ほど、宮崎県に通う生活が続きました。特に宮崎県の五ヶ瀬は標高が高くお茶の摘採が始まるのが静岡よりも随分と遅れます。
静岡で一番茶の作業をしたあとに宮崎に飛んで一心園で茶の作業をし、さらに五ヶ瀬に登ってもまた一番茶の作業をすることができます。その後静岡で二番茶の作業をして宮崎でも二番茶の作業をします。短期間でたくさんのお茶製造の経験値を積むことができました。
また、宮崎滞在中の土日の休みには同期の研修生がいた宮崎茶房にも出入りして在来種手炒り茶、包種茶、烏龍茶、紅茶の製造実験をさせてもらうという生活を四年ほど続けました。
5.無肥料栽培とヤギ農法
俊史さんが肥料不使用栽培に強い関心を寄せるきっかけになったのは「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則さんの著書や講演がきっかけでした。また、農薬肥料不使用栽培の理論も勉強して知識を深めてきました。
さらに自然環境のことを考えると施肥も重要なポイントです。俊史さんはもともと大学の卒論で施肥削減と収量品質の関係についてまとめていて、適量以上に窒素肥料をチャノキに与えても茶の品質や収量に影響しないことを確認していました。
それどころかチャノキが吸えないだけの窒素肥料は土の中で硝酸態窒素やアンモニア態窒素などになり、人間の体に入ると毒となります。こういった成分が雨で流されて20年程で地下水汚染となって問題が表面化するのです。
俊史さんは、山羊のサクラとシロの2頭に茶畑まわりの雑草を食べてもらい、その堆肥を使って茶栽培をする「ヤギ農法」を実践しています。
最初は、田舎暮らしはヤギだろう、というくらいの気持ちで飼い始め、茶畑での活躍は想定していませんでした。
しかし、俊史さんが自園を無肥料で運営しようと考えた時に、ヤギの堆肥を茶畑に入れてみようと閃きました。
肥料を何もやらないということは、畑に生える草の栄養素しか入らないので、土壌を改善するために時間がかかります。
ヤギに周辺の草を食べてもらい、その堆肥を使うことによって地域自然にあるものが万遍なく畑に入り、好循環が生まれるのではないかと考えました。
お茶の芽を食べられてしまうことはないのだろうか?と心配になりますが、ヤギにとっては青草など他の草の方が美味しいと感じるようで、お茶の芽はお口直しに食べるくらい、だそうです。
6.和紅茶の熟成と焙煎によって生まれるもの
現在、自園で栽培している品種として一番多いのは、やぶきた です。
他に、いんざつ(印雑)、べにひかり、べにふうき、さやまかおり、静7132、オリジナルの烏龍茶用品種、まきのはらわせ、たかちほ、いずみ、とがちゃ(五ヶ瀬在来)を少量栽培しています。
もともと発酵茶としては烏龍茶を生産していましたが、お客さんから「柴本さんが作った紅茶を飲んでみたい」という要望があり、五年前から和紅茶を作り始めました。
最初は売るつもりもあまりなかったそうですが、俊史さん自身が美味しい紅茶に出会ったこともあり、自分でも満足する和紅茶を作りたいという気持ちが芽生え、それから懸命に勉強しました。
その甲斐あって、2021年の国産紅茶グランプリではプロダクツ部門でグランプリを受賞し、さらにチャレンジ部門でも準グランプリを獲得し話題をうみました。
この時の茶葉は、2020年の6月に摘んだお茶で作った「蜜香茶べにふうき2020」。
畑で摘む時から香りが強く、これは当たり年ではないかと思ったそうです。
ただ、出来立てのお茶は粗削りな部分もあったので、今年よりは来年出した方が美味しくなるだろうと思い1年熟成させました。
発酵茶は特に、熟成させた方が味や香りの一体感が生まれます。
さらにそれを焙煎することによって、粗めの尖った部分が削れて統一感のある香りになります。また、焙煎温度によって奥行きをもたせることができます。
1杯で終わりでなく、3、4回と淹れることができる。その度に花開いていくような、台湾茶のようなお茶を目指しているそうです。
俊史さんは紅茶でも茶葉の発酵止めは釜で行い、焙煎については釜で行うこともあれば焙煎機を使うこともあるそうです。
7.幸せな仲間とコミュニティを増やしたい
俊史さんは、お茶を作ることは目的ではなく手段だと言います。
持続可能な茶栽培や、減っていく茶園の現状などの根底に流れるものを共有し、同じ問題意識を持った人を増やしていきたい。
「土と太陽の会」という自然農法を実践する若手地元農家の会では、飲み手と作り手をつなげるイベントを開催し、広く一般の人たちにも自然の節理を伝えています。
また、お茶を楽しみながら自然を学べる場所を作っていきたいという思いから、静岡県内7ヶ所にある着地型観光茶園「茶の間ティーテラス」に参加し、「大地の茶の間」として駿河湾を望む展望でのお茶体験を提供しています。
これからも情報発信をしながら、幸せな仲間を増やし、お茶を通じたコミュニティを増やしていきたい。
生まれ育った牧之原の地で、俊史さんの飽くなき探求と挑戦は続きます。
記事作成担当:牧園
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